こんにちは、6月に業務委託から株式会社スマートバンクに正式入社した、サーバーサイドエンジニアの toshimaru です。
株式会社スマートバンクの開発チームに参画して間もない頃、聞き慣れず戸惑った言葉の1つとして eKYC(オンライン本人確認)方式の名称があります(ホ方式、ワ方式など)。
本記事では、私がわからなかったこの eKYC の方式および今後のeKYCのトレンドについて解説したいと思います。
なぜeKYCする?
まず、なぜ本人確認をしなければならないのでしょうか?
当社は資金決済法に基づく資金移動業の登録を受けており、犯罪収益移転防止法に定める「特定事業者」に該当します。マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策(AML/CFT)の観点から、同法に基づく取引時確認(本人確認等)が義務付けられており、その実施手段としてオンライン上の本人確認、すなわち eKYC を実施しています。
この犯罪収益移転防止法(以下、犯収法)で規定されていること及びそれを支えるシステムの構成については、下記記事で紹介しているのであわせてご覧ください。
eKYCの方式まとめ
eKYCの方式としては下記のように説明されることが多いです(実際には一部古い方式名称が使われていて正しくないのですが、それは後述します)。
| 方式名称 | 方式の詳細 |
|---|---|
| ホ方式 | セルフィー(容貌の画像) + 写真付き本人確認書類の画像 |
| ヘ方式 | セルフィー(容貌の画像) + 写真付き本人確認書類のIC情報 |
| ト方式 | 写真付き本人確認書類のIC情報 + 銀行等に顧客情報の照会 |
| ワ方式 | マイナンバーカードに記録された公的個人認証サービス(JPKI)の 署名用電子証明書を利用 |
それぞれを図でまとめると以下の通りです。

本記事では、この中でもよく使われて皆さんにも馴染みが多いであろう、ホ方式とワ方式を中心にまとめます。また、新たに追加された注目の新方式・ル方式も最後に紹介したいと思います。
ホ方式
ホ方式は、2018年11月の犯収法の改正によって利用可能になった方式です。ホ方式は現在主流のeKYC方式となっており、皆さんも日々オンラインサービスを利用する中で、この方式の本人確認を経験されたことがあるのではないのでしょうか。

ホ方式はカメラ機能付きスマートフォンと本人確認書類さえあれば、いつでも・どこでも行えるため、手軽なeKYCの方法である一方、下記の問題点があります。
- 本人確認書類偽造(なりすまし)リスク
- eKYC に時間がかかる(事業者側の目視確認が必要なため)
特に前者のなりすましのリスクは、昨今の生成AI技術の台頭も背景にますます高まっており、現行のホ方式は2027年3月をもって廃止されることが決まっています。
また、先日金融庁から銀行業界に運転免許証の画像で行う本人確認手続きを早期に廃止するよう要請があったりと、この廃止への流れは不可避と言えそうです。
新ホ方式(2027年4月〜)
では廃止された後、2027年4月以降のホ方式はどうなるのでしょうか?
2027年4月以降は、それ以前のヘ方式がホ方式にスライドする形になります。つまり、本人確認書類の画像は使うことができなくなり、本人確認書類のICチップ情報の読み取りが必須となります。
- (旧ホ方式) 写真付き本人確認書類の画像
- (新ホ方式) 写真付き本人確認書類のICチップ情報

新ホ方式(旧ヘ方式)では、以下のメリットがあります。
- セルフィ画像とICチップ内の顔画像を照合するため、なりすましリスクを低減できる
- マイナンバーカードだけでは無く、運転免許証にも対応可能
旧来のホ方式にしか対応していない事業者は、現行のヘ方式に対応するか、後述するワ方式への対応が求められることになります。
ワ方式
続いてワ方式についてです。
ワ方式は、マイナンバーカードに記録されている署名用電子証明書と秘密鍵を使って、本人確認を行う方式です。この電子証明書は地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が発行するもので、J-LISによってその有効性が確認されます。
この仕組みは、公的個人認証サービス(JPKI)と呼ばれ、マイナンバーカードを活用した安全なオンライン本人確認のための国の認証基盤です。JPKIにより、ユーザーは自らの秘密鍵を使って電子署名を行い、事業者側はJ-LISを通じて電子証明書の有効性を確認することで、署名対象のデータに改ざんがないことを検証できます。

JPKI を利用することで、従来のホ方式と比べて次のようなメリットがあります。
- マイナンバーカードのICチップを読み取るため、カード偽造が困難に
- ICチップの基本4情報(氏名・住所・生年月日・性別)を機械取り込みするので、ユーザー情報入力の手間を削減 & 転記ミスをゼロに
- セルフィー・書類画像を使わないので、画像生成AIによるなりすましリスクを大幅に低減
- 事業者の目視確認が不要になり、スマホで数分で eKYC 可能に
- 顔写真・書類画像保管が不要なので、事業者側の画像保管にかかるプライバシー保護の負担軽減
一方でJPKIのデメリットとしては下記が考えられます。
- マイナンバーカード読み取りのために、NFC対応端末が必要
- 暗証番号を覚えていることが必須
- 暗証番号を忘れていた場合、再発行に手間がかかるのでユーザー離脱の可能性が高まる
ワ方式からカ方式、そしてヲ方式に?
実はこのJPKIを利用する方式ですが、JPKIを指す条文の見出し記号がワだったために「ワ方式」と呼ばれていましたが、この見出し記号が2025年6月24日の改正によって「カ」へと変わっています。さらに、2027年4月1日には「ヲ」へと変わる予定です。
| JPKIに該当する 見出し記号 |
e-Gov法令リンク | |
|---|---|---|
| 2025年6月24日以前 | ワ | 令和7年6月1日 施行 |
| 2025年6月24日以降 | カ | 令和7年6月24日 施行 |
| 2027年4月1日以降 | ヲ | 令和9年4月1日 施行 |
本記事はわかりやすさのために、浸透した「ワ方式」という呼称を使いましたが、見出し記号が変わっている現状をふまえると、今後は「旧ワ方式」・「JPKI方式」などと呼称していくのが正しくなりそうです。
ル方式
もう一つ、今後の注目方式としてピックアップしたいのが、2025年6月24日施行の犯収法施行規則で追加された「ル方式」です。ル方式は「カード代替電磁的記録」を用いた方法です(下図参照)。

このスライドの説明だけ見ると「なんのこっちゃ?」って感じですが、本記事執筆時点でここで出てくる「送信用プログラム」として認定を受けているのは、Appleウォレットのみ ですので*1、要は「Appleウォレットを使った本人確認」でイメージしていただけるとわかりやすいかと思います。
具体的な利用方法としては下記の通りです。
- マイナンバーカード登録時
- ユーザーはマイナンバーカードをかざしてAppleウォレットにマイナンバーを登録
- このとき、J-LISが券面情報(氏名・住所・生年月日・顔写真)を含む「カード代替電磁的記録」を検証して発行
- マイナンバー利用時
- 事業者: 本人確認に必要な情報をユーザーにリクエスト
- ユーザー: Appleウォレットを使って「カード代替電磁的記録」を事業者へ送信
以上のように、一度マイナンバーカードをAppleウォレットに登録しておけば、Appleウォレットから気軽にマイナンバーが利用できるようになります。
JPKI方式と比較してのメリット
JPKI方式と比較して、ル方式のメリットはなんでしょうか?
- 物理的なマイナンバー不要で、カードをかざす必要もなし
- スマホが提供する生体認証(顔認証・指紋認証)でOK
この方式に対応しているのは現在のところAppleウォレットのみですが、すでにル方式への対応を表明しているeKYC事業者もあり*2、今後対応サービスが増えていくことが期待されます。
(💭個人的にAndroidユーザーである私は、Googleウォレットのル方式対応を首を長くして待っています…)
【追記(2025年09月09日)】 Andriod でも、2026年を目処にiPhoneと同等のマイナンバーカード機能が提供されることが発表されました*3。
今後のeKYCのトレンド
今後の eKYC のトレンドはどうなっていくのでしょうか。
現在、ホ方式がメインの eKYC 手段となっていますが、今後はJPKI方式およびル方式が eKYC のスタンダードとして普及していくでしょう。理由としては次の通りです。
- 現行のホ方式は、2027年3月に廃止されることが決定していること
- Androidに加えて、2025年6月にiPhoneでもマイナンバーカードが利用可能になったこと
- マイナンバーカード普及率は記事執筆時点で約80%であること*4
特にAppleウォレットに登録したマイナンバーカードによる本人確認は、Appleウォレットの標準UIで動作し、暗証番号不要でFaceIDだけで認証が完結します。OSとシームレスに連携したフリクションの小さいeKYC体験を提供できるので、今後ますます事業者側の採用事例は増えていくでしょう。

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