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B/43を運営する株式会社スマートバンクのメンバーによるブログです

アイデアと上手くつきあう方法

こんにちは。プロダクトマネージャーの@more_tです。

pmconf2022の登壇機会をいただき「アイデアと上手くつきあう方法」というトピックで発表させてもらいました。 このエントリーは発表内容の書き起こし記事です。発表の中から特にとりあげたいポイントを中心に補足や加筆しています。登壇のアーカイブ動画も公開されています。

安全に温泉に通いたい

最初にかんたんなクイズを持ってきました。こちらの文章からどういった解決策が取れるか30秒程度で考えてみてください。

あなたはとある村の村長です。 ある日、村の近くの森に温かい温泉が湧いていることに気がつきました。 しかし温泉へ向かう橋は先日の大雨で流されてしまい、 復旧が必要な状況です。 村の皆は温泉が大好きで、橋の使えない川を渡っていく人もいれば、 わざわざ遠回りしていく人もいる状況です。 さて、村人たちが安全に温泉を利用するためにあなたは村長として何をしますか?


シンキングタイム: 30秒

スクロールすると例が表示されます


さて、あなたはどういった解決策を思い浮かべましたか。 一例として下記のような解決策があると思います。

解決策の例

  • A: 橋を修復する
  • B: 船を作る
  • C: 治水工事で川の流れを変える
  • D: 川の手前まで温泉を引く
  • E: 村を川のむこうに移設する

AやBは川を渡りやすくするための素直な解決策です。 C,D,Eについては工事や移設が大変になりますが、これらも解決策と言えそうです。

解決策は1つじゃない

ここでは正解を考えようとはしていません。 いろいろな解決策が存在し、また状況や背景に応じてどれもが正解になる可能性があります。 「選択肢を持てているか」「選択肢の中から理由をもって意思決定できているか」が重要です。

アイデアに固執してしまう

冒頭のクイズであなたはどういった解決策を思い浮かべましたか? 1つアイデアが思い浮かんだ後に自分のアイデアに満足し、スクロールして読み進めてしまった方も多いのではないでしょうか。 ここからエントリーの本論として「アイデアに固執してしまう」ことについて考えます。

最初に「アイデアに固執してしまう」ことに関して、よくやってしまいがちなシーンを挙げてみました。 どのシーンも、もっと良いやり方があるはずですが途中で考えることをやめてしまっています。 言い換えると無意識のうちに「今もっているアイデアが一番良い」と思いこみ、判断している状況です。

3つの思いこみ

「アイデアに固執してしまう」背景には人の思いこみがあります。無意識のうちに認知がゆがんでおり、その状況に気づけない事も多いです。そして、思いこみに気づけない中で意思決定を行うことで、潜在的に良いアイデアを逃してしまっていることがあります。

今回の発表ではプロダクトマネージャーが避けるべき3つの思いこみについてお話しました。

  • 「自分は大丈夫」という思いこみ
  • 過去の成功による思いこみ
  • 「苦労 = 良質」という思いこみ

それぞれの思いこみについて見ていきます。

「自分は大丈夫」という思いこみ

見たくない情報ほどしっかり向き合おう
人は自分にとって都合の悪い情報を得た時、それを軽視したり真剣に捉えない事があります。そして、そもそも都合の悪い情報を得ようとしないばかりか、都合の良い情報を優先的に集めやすい性質を持っています。こうした性質によって「自分は大丈夫」という思いこみが強化されやすいです。

チームで生まれる議論や意見からこうした思いこみ気づくことも多いです。一方でチームで議論や協働する中で、チーム内の同質性が高まってしまい、再び思いこみにとらわれてしまうこともあります。つまり「自分は大丈夫」でなく「自分たちは大丈夫」という状況です。自分にとって都合が悪く「知りたくなかった」となるような情報ほど広く収集し、丁寧に向きあって意思決定する必要があります。

過去の成功による思いこみ

「ハンマーしか持たない人はすべてが釘に見えてしまう」
人は経験を積んでいく中で、成功体験が増え、また自信がついていきます。経験によって、昔できなかったことができるようになったり、時間がかかっていたものを短時間でできるようになったりします。一方で経験によって自分の視野を狭くしてしまう事があります。「ハンマーしか持たない人はすべてが釘に見えてしまう」と言われるように、自分の経験がハンマーになってしまうことで思いこみにハマる事があります。

とあるチェスの研究では「中級者は定石にとらわれ」「本当にうまい上級者は定石を破って別の打ち手を見つける」そうです。成功体験や経験は自分の武器となりますが、いつでも自分の経験に頼るのがベストとは限りません。以前に成功したときと状況が似ているように思えても、背景や状況は変化します。常にハンマー以外のやり方や解決策を持っておきたいです。

「苦労 = 良質」という思いこみ

自分で組み立てると愛着を感じる
アイデアや価値仮説にたどり着くまで、調査や分析を行う、またブレストを行うなど時間やコストがかかっています。そして、頑張って準備したアイデアほど良いものであるという思いこみにとらわれてしまいます。

イケア効果という言葉があります。出来合いの家具を購入するより、自分で組み立てた家具のほうが愛着を感じたりより良いものとして感じるという効果をイケア効果と呼ぶそうです。これはアイデアについても同様で、自分で時間をかけたものには愛着を持ちすぎたり、過大評価してしまいやすくなります。またこれまでのコストを「もったいない」と感じてしまう側面もあります。しかし、かけてきたコストは品質を保証するものではありません。 「可愛い子には旅をさせろ」というわけではないですが、アイデアがどれだけ可愛く見えたとしても、重要なのはユーザーに価値を届けてプロダクトを良くすることです。

「気づけていないこと」が常にある

上に挙げた「思いこみ」に心当たりのある方も多いのではないでしょうか。人はどうしても思いこみにとらわれてしまいます。また悪いことに「その時には気づけない」のです。気づかぬまま判断してしまう状態を避けるために、いくつかのチェック方法を持ちルーティンとして落とし込むことを提案しました。

アイデアをならべて比較する

選択肢を持てていますか?
「アイデアを比較する」というのは複数の解決策のメリットデメリットを整理して合理的に選ぶというだけの話ではありません。 合理的にアイデアを選択するのは重要ですが、その前に複数の選択肢を持っている状況をつくってください。

特に、反射的なアイデアに満足しないようにしてください。解決すべき課題に対して反射的にアイデアが出てくることがあります。これは上述のハンマーの例のように、経験則から解決策を引き出してくるパターンに多いです。脳のモードは反射的にアイデアを出すモードとしっかり考えてアイデアを出すモードがあります。少しだけでも後者の脳の使い方を行うことでアイデアはグッと良いものになります。

もし反射的にアイデアを思いつき、それを良いと感じたとしても、脳に汗をかくつもりでもう少しだけひねって考えてみてください。 少なくとも数分間、3,4つくらいのアイデアを思いつくまで選択肢を増やすのが良いです。

人に話してみる

相手はテディベアでも良いかも
2つ目は人に話すということです。 よく言われることですが、人に話すことによって自分の考えを客観的に見られます。 また、相手によって様々な観点で話を聞いてもらうことができます。 例えばチームメンバー相手に相談するなら制約や課題などの文脈をこまかく共有した状況で話を聞いてもらえます。一方で、これまで議論など重ねているので、客観性が少し弱くなります。 他チームのプロダクトマネージャーを相手に相談するのであれば、社内の状況やプロダクトマネジメントの文脈に沿う形で、話を聞いてもらうことができます。この場合、チームで抱えている状況を知りすぎていないというのも有効に使えます。 確認したいことにあわせて友人や家族など話を聞いてもらう相手を変えるのも有効となります。 「誰かに説明する」だけでも自分の考えを客観視できます。自室のテディベアに相談してみても良いかもしれません。

課題を解きなおす

なんども繰り返すうちに、複数の課題を一気に解決できることも
3つ目は課題を何度も解きなおすということです。 課題の要因を最初に見極めるのは重要です。 その上で一度課題を解いたあと、フォーカスする要点をずらして課題を解きなおすことで、後者がより良い解決策になっていないか検討できます。また一度課題を解くことで、より重要な要因など最初に検討していた時に気づけなかった点に気づくこともあります。

「課題に対して複数の解決策を考える」そして「課題の別の要因に対して複数の解決策を考える」というステップを繰り返し、出てきた選択肢の中からベストな選択肢を選ぶことで、もともとの選択肢より広い観点から課題に向きあって意思決定を行えます。

まとめ

プロダクトマネージャーは開発に際し、様々な思いこみの影響を受けていること、そしてその思いこみを認識することは難しいという話をしました。重要な意思決定を行う時にすら思いこみに気づけないまま判断してしまうことも多いです。 「思いこみを自分で認識するため」「思いこみを前提としてより良い選択肢を見つけるため」には自分なりのルーティンやチェック方法を持つことが良い解決方法となります。

思いこみでプロダクトマネジメントをやってしまう俺たちへ

発表内容の書き起こしは以上となります。 今回の発表内容を考えるに際し「プロダクトマネージャーがより高い精度で意思決定するための参考になれると良いな」とボンヤリ考えていました。そしてアイデアについて話すことを決めた後、次の2点について考えました。「アイデアを思いつくのが難しい」「思いついたアイデアにとらわれてしまう」ことです。資料内にて「2つの壁」とした部分で、良いアイデアと出会うために乗り越える必要がある難所です。前者についてはアイデアの発想法や思考法など関連書籍も多く出ています。しかし後者について語られる機会は少なかったのではと思います。

私は、自分を含めプロダクトマネージャーが思い込みによってアウトプットの品質を落としてしまうケースを経験・散見してきました。普段の業務を進めることを優先するあまり「思いこみ」のまま流れるように物事を進めてしまっているのです。プロダクトマネージャーは情報の整理や意思決定に長けた方が多いです。しかし気づいていないことを考慮にいれて判断はできません。今回の発表で「気づいていない思いこみがある」ということを意識するきっかけになれば幸いです。

最後に、思いこみへの対策について私もまだまだ試行錯誤中です。 思いこみやバイアスを避ける方法でより良いやり方をお持ちであれば、是非コメントなどで教えていただけると大変参考になります。

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