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B/43を運営する株式会社スマートバンクのメンバーによるブログです

プロダクトサイドからみた決済サービスの法的スキーム

こんにちは!スマートバンクでソフトウェアエンジニアをしている uribou です。

今回は、決済サービスの法的なスキームについて解説しようと思います!
スマートバンクが運営する B/43 では、資金移動業というライセンスを利用して決済サービスを提供しています。一方で、一見 B/43 と同じようなサービスでも、違うライセンスで運営している事業者も存在します。

実は、このような裏側のスキームの違いが、プロダクトにおける機能差分として現れています。私自身はエンジニアですが、プロダクトを作る上で事業の法的なスキームを理解する必要がありました。しかし、プロダクトの視点から決済サービスの法的スキームを整理した資料は少なく、キャッチアップに苦労しました。

そこで、プロダクトサイドの視点から、決済サービスの法的スキームを整理してみたのが本記事になります。厳密性や網羅性には欠けるかもしれないですが、その分、分かりやすくなっているかと思います。
マニアックな内容にはなりますが、普段利用している決済サービスの裏側に興味がある方に読んでいただければ幸いです!

クレジットカード

まずは、みなさんに馴染み深いであろうクレジットカードから説明していきます。

クレジットカードは、与信枠の範囲で決済して後から支払う後払い形式のサービスです。このような与信を利用した後払いの決済は、法的には販売信用と呼ばれ、主に割賦販売法によって規制されています。販売信用は、契約の仕組みから割賦販売 信用購入あっせん ローン提携販売の3つに分類されます*1。クレジットカードのような、利用者と販売事業者以外の第三者が利用者の代金を立替える場合は、信用購入あっせんに当たります。

信用購入あっせん

信用購入あっせん自体も、サービスの形式により個別信用購入あっせん 包括信用購入あっせん の2つに分類されます。

個別信用購入あっせん

個別信用購入あっせんは、商品の購入といった取引毎に与信を行うサービスが該当します。ショッピングローンやオートローンがこれに当たります。

包括信用購入あっせん

包括信用購入あっせんは、カードなどを発行して利用者に包括的な与信を与えるサービスが該当します。クレジットカードはこれに当たり、カード発行会社は利用者に一定の与信額を設定し、利用者はその範囲内で自由に買い物ができます。

包括信用購入あっせんを扱う場合は、包括信用購入あっせん業者*2への登録が必要になります。また、利用者の年収や債務状況を鑑みた包括支払可能見込額調査や、利用者の本人確認が必要になる犯罪収益移転防止法の規制を受けます。クレジットカードを申し込む際に、必ず年収を聞かれたり本人確認が必要なのは、これによるものです。

一方で、カード発行会社は年収や年齢といった属性情報を元に利用者の与信を判断していますが、必ずしも実態に即した与信を与えられず課題となっていました。そこで、2021年に割賦販売法が改正され、AI与信が可能になる認定包括信用購入あっせん業者 少額包括信用購入あっせん業者が新設されました。

AI与信は、属性情報に代えて決済データや取引に関する情報を用いて与信を行います。認定包括信用購入あっせん業者は、当局(経済産業省)からAI与信の確かさについて認定を受けると取得でき、メルペイが取得されています*3
また、少額包括信用購入あっせん業者は与信額の上限が10万円以下という制限がある代わりに、比較的緩い要件で取得できます。Nudge は、このライセンスを利用してサービスを提供されています*4

マンスリークリア

今まで説明した信用購入あっせんは、購入から支払いまで2月を超える場合に限り適応されるという条件があります。そのため、2月を超えない場合は信用購入あっせんには当たらず、この場合はマンスリークリアとして分類されます。

マンスリークリアは、犯罪収益移転防止法のような規制を受けないため、利用者は本人確認をせずともサービスを利用できます。EC で代金を後から支払える後払いのサービスがありますが、大体の場合はマンスリークリアで実現されています。また、B/43 のあとばらいチャージもマンスリークリアに当たります。

前払式支払手段

次は、事前にチャージしてから決済を行う前払式支払手段について説明します。

前払式支払手段は、商品の購入等に利用できる有償のポイントのことで、ポイントの発行者に対して事前に金銭などを支払うことで発行されます。代表的なものとして、百貨店の商品券やスタバのプリペイドカードのような実店舗で利用できるもの、Suica のような IC カードにチャージされるものや、PayPay のような電子マネーで利用されています。

前払式支払手段には、自家型 第三者型の2種類があります。ポイントの利用先が発行者と密接な関係者に限定されている場合は自家型、第三者の加盟店でも利用できる場合は第三者型に分類されます。第三者型前払式支払手段の発行者になるには、第三者型前払式支払手段発行者*5に登録する必要があります。
以降は、特に断りがない場合、前払式支払手段 = 第三者型前払式支払手段という前提で説明していきます。

前払式支払手段の規制

電子マネーで利用される前払式支払手段は、主に資金決済法によって規制されています。主な規制内容として払戻の禁止が挙げられます。

払戻の禁止は、発行した前払式支払手段は原則払い戻すことを禁止するというものです。払い戻しが禁止されるということは、電子マネーでいうと入金した残高を出金できないことを意味します。これは、出金した場合は実質的には資金を移動したと見なされ、次の節で説明する資金移動業に該当してしまうためです。

一方で、前払式支払手段は犯罪収益移転防止法の規制を受けません。そのため、前払式支払手段でサービスを提供する場合、利用者は本人確認を行わなくともユーザ登録が可能になります。

資金移動業

最後は、B/43 が取得している資金移動業について説明していきます。

資金移動業は、銀行以外の事業者が為替取引を用いて提供する送金サービスのことです。為替取引は、実際に現金を輸送することなく資金を移動することを指します。為替取引は、長らく銀行だけにしか提供が認められていませんでしたが、2010年に資金移動業が整備され、銀行以外の事業者も為替取引を提供できるようになりました。

また近年では、送金だけでなく資金移動業決済を組み合わせたサービスが出てきました。これらのサービスは、利用者が送金待ちの資金として資金移動アカウントへ入金し、アカウントの残高に対して決済や出金を行えるようにしています。資金移動アカウントへ入金された資金は、あくまで送金待ち状態というのが、次の節で説明する資金移動業の規制を考える上でのポイントになります。

資金移動業の規制

資金移動業は、主に資金決済法で規制されています。また、資金移動業を扱うには資金移動業者*6への登録が必要になります。資金移動業者に課せられる要件や規制は厳しく、登録しているスタートアップは多くありません。

資金移動業は、第一種 第二種 第三種の3つの類型に分かれています。それぞれ、取引において扱える上限等が異なり、それに比例してリスク管理の要件が厳しくなります。B/43 のような決済サービスの運営者は、第二種資金移動業を利用してサービスを提供するのが一般的です。そのため、以降は特に断りがない場合、第二種資金移動業のものとして説明していきます。

資金移動業者に課せられる規制の中で、特徴的なものとしては滞留規制 犯罪収益移転防止法による規制が挙げられます。
滞留規制は、利用者の残高が100万円を超過していないか利用者の残高が長期間残り続けていないかをモニタリングする必要があります。資金移動業は、元々は送金に利用される想定の仕組みのため、残高が多すぎたり、残高として長期間残り続けている状態は預り金と見なされ出資法に抵触してしまいます。預り金の管理は銀行にしか認められていないため、資金移動業者はそのような状況になっていないか日々モニタリングする必要があります。

また、資金移動業は犯罪収益移転防止法による規制を受けます。そのため、利用者がサービスに登録した際は本人確認を行う必要があります。また、送金という業務の性質上マネーロンダリング対策(AML)反社会的勢力(ASF)に該当しないかをチェックする必要があります。

資金移動業と前払式支払手段の併用

いくつかの決済サービスは、資金移動業と前払式支払手段を併用してサービスを提供しています。これら2つを併用するメリットは以下が挙げられます。

  • 利用者がユーザ登録する際に本人確認が不要になる(前払式支払手段)
  • 残高を出金できるようになる(資金移動業)

ユーザ登録時の本人確認は、資金移動業においては犯罪収益移転防止法によって義務付けられています。一方で、前払式支払手段では本人確認は必須ではありません。そのため、ユーザ登録時には前払式支払手段として扱うことで本人確認を不要にし、任意のタイミングで本人確認を行うと以降は資金移動業として扱う手法があります。これにより、利用者は本人確認せずにサービスを利用開始でき、サービスをより利用したくなってから本人確認を行うことが可能になります。

次に、残高の出金についてです。前払支払式手段として入金された残高は、出金させることが出来ません。一方で、資金移動業として入金された残高は出金させることが出来ます。そのため、出金機能を利用したいユーザには本人確認を実施させ、出金可能な資金移動業を適応させる方法です。例えば PayPay では、出金できない残高と出金できる残高の2種類が存在しますが*7、基本的には前者には前払支払式手段が適用され、後者には資金移動業が適用されています。

さいごに

結構ボリューミーな内容だったかと思いますが、いかがでしたでしょうか?
今回紹介した以外にもいくつかスキームや制約がありますが、大筋としては世の中の決済サービスがどのように提供されているか理解できるんじゃないかなと思います。
より、網羅的かつ詳細に理解したい方は、参考文献に挙げた本をぜひ読んでみてください!

参考文献

詳解 デジタル金融法務
カード決済業務のすべて―ペイメントサービスの仕組みとルール


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