スマートバンクは、先日総額40.8億円のシリーズB資金調達を実施したことを発表しました。
過去の資金調達ではCEOが自ら調達をしていたことで本来のCEO業務がストップする事態に。そこで、今回の資金調達にむけてスマートバンクで初めてのCFOを採用しました。
CEO堀井翔太さんとCFOの下河原さんに、今回の調達の裏側として、CFOの採用、調達金額やタイミングの決め方、日本と海外の投資家の違いなどをうかがいました。
- ケーススタディ型の面接でCFOを採用
- 調達はCFOが情熱をもって語れるようになってから
- 率直に意見を出しあいながら、CFOに任せていく
- フィードバックを重ねて投資家プレゼンのレベルを上げる
- 投資家プレゼンで感じた日本と海外の投資家の違い
- ダウンラウンド回避を意識した調達金額の設定
- ステージに応じた投資家とのリレーションづくり
ケーススタディ型の面接でCFOを採用
ーーCFO採用はいつ頃からはじまったのですか?
CEO 堀井翔太(以下、堀井)
実は、シモさん(下河原さん)が入る2年前からCFOをずっと探していました。
私は10年以上スタートアップを経験していますが、資金調達の難易度が年々上がっているのを感じています。さらに、調達の前に事業や社員のことを理解するためのキャッチアップ期間も必要なので、今ではランウェイの1年以上前から準備を始めないと間に合わない印象です。
ーー資金調達が長期化している理由はどこにあるのでしょう?
堀井) コロナの影響もあると思いますが、市況が多方面で悪化しているのが大きいのでしょう。僕もこれまで15年ほどやってきましたが、2012年に起業して以来、今が一番厳しい環境だと感じます。
ベンチャーキャピタルの数も増えて、投資できる資金自体は増えているはずですが、複数の要因で調達が難しい状況になっていると感じます。アメリカの景気や日本の株式市場の低迷も影響していると思いますね。
ーーそんな状況下で、CFOをどのように採用したのですか?
堀井) CFO候補者は一般的な採用市場にほぼ出てこないし、スマートバンクに合う人を探すのは更に難しく、社長がヘッドハンティングする以外に方法がない状況でした。
面接については、調達業務を自分以外に任せたことがなく、どんなスキルを持つ人を採ればいいのかもわからない状態でした。投資先のVCやすでにCFOをやられている方々に相談した際、「堀井さんの経験を超えるCFO候補を見つけるのは難しい。まず “自分より調達を全部上手くできる人を探す” という考えを捨ててください」と言われたことを覚えています。
そこで、CFOを深く理解するために、他社で経験豊富なCFOの方々にインタビューをしました。既に実績のあるCFOに「自分自身の代わりのCFOを探すとしたら、どう探すのか?」「面接でどう見極めるのか?」を聞くことで、解像度を高め、どんな人材がふさわしいかを見極めようとしたんです。
そんな中で「CFOに求めるスキルを判断するためには、ケーススタディ形式のプレゼン面接が良い」とアドバイスを受けました。通常の面接だけでは見極めが難しいし、CFO候補がエクイティ調達のオーナーを果たせるかを評価できる場が必要だからです。
加えて、ケーススタディに取り組む姿勢から、その候補者がどれだけスマートバンクに入りたいかも推しはかれるため、一石二鳥との意見が多かったですね。そこで、通常の選考と少し異なる形で進めることにしました。
CFO下河原さん(以下、下河原)
「あなたがCFOとしてこの会社に入ったとき、次の資金調達をどう進めるか。最終面接でプレゼンしてください」と最終面接の課題をだされましたね。
私が面接を受けたのは2023年3〜4月頃ですが、SeriesA資金調達が2022年7月頃。20億円調達してから半年しか経っていないのに、資金調達を視野に入れた厳しい面接があったことに、ポジティブな驚きがありました。
前職に在籍しながら転職活動をしていたので、平日は前職にフォーカスして、週末に何時間もかけて最終面接の課題を準備して、と結構ハードでした(笑)。
でも、そこまでして徹底的に見極めようとする姿勢も同時に伝わりました。資金調達を任せたいという期待が込められているのが伝わり、ミッションが明確で良かったです。
UBS証券債券部を経て、ゴールドマン・サックス証券債券部に。2年間の債券営業部の勤務を経て、2015年より投資銀行部門。大手金融機関・事業会社の非公開案件や、日本初の再生エネルギープロジェクトファイナンス、LBO(レバレッジド・バイアウト)など多岐に渡る非公開案件の取引に従事。2021年よりスタートアップ業界に転職し、2023年7月より現職。
調達はCFOが情熱をもって語れるようになってから
ーー下河原さんは、入社してまずどんなことから始めたのですか?
下河原) 最初に翔太さんに、「いつ頃から調達を始めるんですか?」と聞いたら、翔太さんは2024年3月を目処に完了させることを目指していたようでした。自分でランウェイ分析をしたところ、2024年3月は少し早すぎる気がして「来年の9月くらいでもいいのでは?」と提案したことを覚えています。当初は調達のタイミングに対する認識の差がありましたね。
堀井) 自分はずっと経営陣の中で唯一の「お金を見る人」でした。創業メンバーがエンジニアとデザイナーだったこともあり、会社のランウェイや従業員への給与支払いも管理していたので、自然と心配性になります。
フリマアプリのときもそうですが、今の事業も単に会社のランウェイだけでなく、ユーザーの預かり資金を担保するために大きな資金が必要です。フリマアプリでは売上が大きくても、キャッシュフロー次第では黒字倒産の可能性がありました。
今のフィンテック事業でも供託金の管理が必要で、単に売上だけでなく、預かっている資金も含めてキャッシュポジションを高めに維持することが求められます。保険のように、「倒産しない」という安心感を保ち続けるために急いでいたのかもしれません。
下河原) 僕も気持ちは理解できますが、前回調達したお金を事業成長のために使ってから次の調達をする方が、条件もよくなるし、調達の難易度も下がります。
危険水域に入らない範囲でどこまで成長に資金を使えるのかを考えた際に、2024年3月だとタイミングが少し早いと思いました。
それと、調達担当(CFO)が投資家に事業への情熱を持って語ることが一番大事だと思っています。自分が事業に対して100%の情熱を持っていないのに、「投資してください」と心を込めていうことはできないし、投資家にも情熱が伝わらないからです。
自分が心から事業を理解して、情熱を持って投資家にアピールするには、事業、創業者、チーム、ユーザーなどの強み・弱みをきちんと把握していることが重要です。3月に調達するには、自分の理解が十分に追いつかないだろうと感じました。
あとは、今後の機能リリースと数字への影響を考えても、3月よりも2024年秋がベストだと考えました。この点が、最初の大きなすり合わせだったと思います。
率直に意見を出しあいながら、CFOに任せていく
ーー実際に進めるなかで、翔太さんはどのようにCFOへ業務を託していったのですか?
下河原) 翔太さんが自分を採用した理由の一つは、CEOが調達にかかりきりにならず、他の業務に専念できるようにするためだと理解しています。そこで、面談や資料作成も自分が主体的に行い、翔太さんには最小限の手直しをお願いする形にしました。
同時に、翔太さんを切り札として使うことを決めていて、ここぞというタイミングで出席してもらったり、コミュニケーションしてもらうように設計しました。
堀井) 自分の成功体験をそのまま再現して欲しいわけでもないので、シモさんの進め方を尊重したいなと思っていました。最初は不安でしたけどね(笑)。調達初期は資料も細かくチェックし、「自分ならこうする」といった意見を多く伝えた記憶があります。
下河原) その気持ちはすごく分かります(笑)。自分からも、前半は翔太さんに対して率直に意見を伝えた記憶があります。
堀井) メルカリの小泉さんが言っていたように、自分が得意な領域の人を採用してよかったです。自分の得意分野を補完してくれる人材なら、どこを補強すべきか把握しやすいですからね。
ーー投資家へのプレゼン資料はどのように作成していったのでしょう?
下河原) 基本的には自分がスライド作りや調整を担当していました。翔太さんは「こういうビジュアルにしたらどうか」と案を作ってきてくれましたが、それを「絶対使ってほしい」という感じではなく、「使うかどうかは任せるよ」と渡してくれるスタンスでした。
話の流れに合ったものや統一感のあるものは採用し、逆に伝えたいことがうまく伝わらないものは自分が作ったスライドを使うなどして調整しました。
翔太さんに作っていただいたスライドを使わないと判断した際にも、「なんで使わなかったの?」と責めてこなかったので、大人だなと感じましたね。これはプロジェクト全体の舵取りをする上で、本当に助かりました。
堀井) ピッチのスライドは最初から完璧なものを作るのは難しいんです。投資家と話してみて反応を見ながら徐々に調整して、最終的に完成度を高めていくのが一般的です。今回、スライド作りや調整はシモさんが担当してくれたので、フィードバックをしつつ、必要に応じて手伝う形でした。
CFOが投資家とのやり取りを重ねてチューニングを行う中で、気づきや改善点が蓄積されていくと思うので、任せることが多かったですね。
フィードバックを重ねて投資家プレゼンのレベルを上げる
ーー投資家プレゼンはおふたりで参加したのですか?
下河原) 最初の頃は翔太さんにも投資家へのプレゼンに同席してもらいました。特に最初の2回ほどは、プレゼン内容が固まっていなかったので、翔太さんにフィードバックをお願いし、「このスライドではこう言った方がいい」「プロダクトの説明をもっと厚くした方がいい」などのアドバイスをもらいました。また、投資家や社内外からもフィードバックを受け、それを取り入れる形で資料をブラッシュアップしていきました。
堀井) 僕も過去の資金調達の経験をふまえて、例えば「ユースケースがどうハマっているか」や「他社との差別化ポイント(例:カード発行から決済まで一貫していること)」をしっかり伝える重要性を認識していました。初期段階ではシモさんと伴走して、鉄板で刺さるフレーズを反映するような、ある意味「インストール」みたいな作業だったかもしれませんね。
ーー投資家とのやり取りを重ねてチューニングをしたとのことですが、具体的にどんなやり取りをしたんでしょう?
下河原) 既存の投資家や、以前から知り合いの投資家、さらに関係値のない投資家さんにも、ピッチへのフィードバックが欲しいと依頼しました。
遠慮したフィードバックしかもらえないと、自分たちが本当に知りたいポイントが見えてこないので、「今回のプレゼン、何点ぐらいだと思いますか?」と点数をつけてもらうようにしました。
60点だと言われた場合、「残りの40点のマイナス理由は何でしょう?」と具体的に聞くことで、ネガティブなフィードバックを引き出しました。VCなどの投資家も、事業会社に嫌われると投資案件ができなくなってしまうからか、直接「ネガティブフィードバックください」と言っても教えてもらえないこともあります。「ネガティブなFBを聞いて改善したい」という姿勢を見せたり、聞き方を工夫することで解決しました。
投資家プレゼンで感じた日本と海外の投資家の違い
ーー投資家プレゼンを重ねる中で感じた壁はありますか?
下河原) 日本の投資家は「失敗しない投資」を求めることが多いと感じています。プレゼンで興味を持ってもらえても、ビジネスモデルや今後の展開を説明すると、C向けのフィンテック特有の「将来的な期待値を込めた事業展開」に対して消極的な反応を受けることが少なくありませんでした。
たしかにC向けのフィンテックはBtoBでもなく事業モデル自体も堅いわけではありません。むしろ柔軟性が求められる分野です。ただ、その分ホームランを狙いやすい分野でもあります。実際、世界的に見てもC向けのフィンテックで成功している事例は存在します。
フィンテック事業は規模がどれだけ大きくなっても、どこまでも「期待値への投資」が残るため、投資家を見つけるのが難しいなと感じています。
ーー今回の資金調達でも海外投資家の検討はされていたんですか?
下河原) はい、話はしていましたが、最終的には海外は次回に回すという判断をしました。理由は3つあります。
1つ目は、ファウンダーのプレゼンスです。創業者3人のプレゼンスは日本では非常に有効ですが、海外に対しては限定的だと感じました。
2つ目は、シリーズCまでに海外展開する可能性が低いことです。私たちのサービスは日本のローカルな金融課題に焦点を当てているのと、国内でもまだ十分に事業規模が大きくなる余地があるため、すぐに海外展開を考えないといけないプロダクトではありません。
シリーズCまでに海外展開する可能性が低く、海外人材が必要となる可能性が低いのであれば、海外投資家に入っていただくメリットをうまく活用できないと判断しました。
3つ目は、調達環境です。2021年以後、特に海外のフィンテック市場の調達環境はかなり厳しいです。海外の投資家は、特にC向けフィンテックには慎重な姿勢を取っていたことから、海外投資家にアプローチしても良い結果は得られにくいと判断しました。この状況は、海外でも利下げが進む中で、少しずつ改善してきているように感じます。
今回は見送りましたが、シリーズC以後も今回同様に検討した上で判断する必要があると感じています。
ダウンラウンド回避を意識した調達金額の設定
ーー調達金額はどのように設定したのでしょうか?
堀井) 資金調達の金額設定は、僕から何度か「もっとこれくらい行きたい!」と言いましたが、シモさんから「それも可能だけど、先が厳しくなる」といった意見をもらって、結果的に今回の金額に落ち着きました。
この部分はどのスタートアップでも一番悩ましいポイントですよね。誰がリード投資家になるのか、目標金額をどう設定するのか、資金調達の市況をどう読むのか、といった様々な変数があると思います。
下河原) 翔太さんは、CEOとして高いバリュエーションでの調達を目指していたと感じますし、それ自体は自然な発想だと思います。
ただ、自分たちが提示する評価額については、説得力を持たせる根拠の提示と、論理の構築が必要だと思っています。
堀井) 計算ロジックを先に組み立てる場合もあれば、逆算で「これぐらいの金額を調達したい。そのためには、このバリュエーションが必要だから、こう見せよう」という形で調達ストーリーを考えるスタートアップも、少なからず存在するとは思います。
いずれにせよ、「自分たちがなぜその評価額だと思うのか」について、正しく語れることが必要だと思います。
下河原) 我々の事業について言えば、決済事業やペアカードは非常に高い成長率を示しているので、その数字を強みにした交渉も行いました。他社の成長がX倍、マルチプルがY倍なのであれば、成長率が高い当社はもっと高く評価されて良い、という話ですね。
投資家には「できるだけ安く投資したい」というモチベーションがありますし、それは投資家として真っ当だとも思います。「このバリュエーションなら投資したい」とフィードバックをくれる複数の投資家の意見や根拠も聞いて、外部の目線と当社の希望の目線を擦り合わせながら、「ここが現実的だと思う」という着地を擦り合わせるというプロセスになりました。
個人的には、資金調達でCFOとして絶対に避けたいと思っているのが「次回ダウンラウンドになること」(今回の評価額よりも低い評価で、次の調達を実施すること)です。ダウンラウンドが絶対悪なわけではないのですが、我々を信じてくれた投資家に損失を出すことは、極力避けたいと思っています。
ここで言っているのは、「高すぎる調達をしない」というのと、「評価を凌駕する事業成長にコミットする」という意味です。
事業運営の結果として、次回の調達がダウンラウンドでも仕方ない業績なのであれば、逆に企業としてはいち早く状況を受け入れて、ダウンラウンド覚悟の調達に走るべきだとは思います。
ステージに応じた投資家とのリレーションづくり
ーー投資家はどのように決めていったのですか?
下河原) リード投資家に関しては、翔太さんが長年築いてきたリレーションや実績が大きかったと感じます。
堀井) 投資家には、シードからシリーズA、B、Cと、それぞれのステージで適切な役割を果たす存在がいて、その選択が非常に重要だと思います。
特に最近は市況が悪いこともあって、お金を持っていても投資してくれる人が少ないんです。シードやシリーズAの投資家は元気なことが多いのですが、そういったファンドは小規模なことも多いので、1件あたりの投資金額が大きくなるシリーズBやCになると、追加投資ができなかったりします。
我々のようなC向けFintechの分野は成長に時間がかかったり、免許上、供託金を確保する必要があるので、初期段階からミドル・レイターの調達でもリードを取れたり、フォロー投資してくれる可能性のある大きな投資家を入れることが重要だと感じています。
こういった市況の変化を理解していないと、後々大規模な資金調達が必要になったときに対応できなくなる可能性もあると感じています。
今回、下河原さんもその点をある程度意識していたのではないでしょうか。
下河原) 今回リード投資家は、既存の投資家にお願いする形になりましたが、プロセスの中では次のラウンドを支えてくれそうな資金力のある新規の投資家とも、次回以降を見据えて情報交換をしていました。
堀井) 他社の資本構成を見ると、「次のラウンドで引っ張り上げてくれる既存のVCがいない」という状況が結構ある気がします。そうなると、新規の投資家を必死に探さないといけなくて苦しそうに見えます。
下河原) 新しい投資家が全く入らなかったとしても、次の資金調達に向けてリレーションシップを築くことが大事だと思います。規模の大きな投資家と定期的に話す関係を構築して、「次は、こういう数字が出ていれば投資します」と確約してもらえるのが理想ですね。
堀井) 次の調達タイミングを考えたり、上場や黒字化までに必要な資金を逆算して、そのために必要な数字を達成するにはどんな機能開発を進めればいいのかも含めて考えました。今回のラウンドでいくら調達するかを決めるプロセスもそうしたロジックに基づいていましたね。
下河原) 基本的には、調達できるタイミングでしっかり資金を確保しておくのが良いとは考えています。
堀井) そのあたりは、CFOのスタイルによる部分も大きいですよね。資金調達のゴールを設定し、調達の進捗を見てチューニングしていく。目標額に到達しそうなら追加調達を考えるし、厳しいと判断したら切り上げる判断をする。僕自身は、最初に設定した目標を共有しつつ、その後の調整はほとんどお任せしていました。
資金調達の期間を決めてダラダラと続けない、というのも重要なポイントだと思います。その意思決定をCFOがどの程度リードするかは、スタートアップの資金計画において非常に大事だと思いますね。
ーーたっぷりお話いただき、ありがとうございました!
このような道のりを経て実施した、総額40.8億円のシリーズB資金調達。
この調達額はおもに採用強化にむけて活用します。
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