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成果が出ないユーザーインタビューは何がダメだったのか? ~「誰に聞くか」の探り方 ~

こんにちは!

プロダクトマネージャーのじょー(@jouykw)です。

先日国内最大級のプロダクトマネージャー向けカンファレンス #pmconf2023 にて、公募セッションで登壇の機会を頂きました。

テーマは、プロダクトグロースに向けたユーザーインタビューの設計において、「誰に聞くか」という対象者選定プロセスの重要性や具体の進め方を提案するものです。ニッチなテーマだったのですが、思いの外たくさんの方々に聞いて頂き、反響をもらえて嬉しかったです。

本ブログでは、発表内容の要点を取り上げつつ、テーマ選定に至った背景、話し切れなかった点、プレゼン後に皆さんと議論させて頂いた点などについて補足をしながら、より思索を深める手引きとなれば幸いです。

※下記 pmconf2023 公式セッション紹介ページにて発表アーカイブ動画・資料も upload されていますので是非そちらもご覧ください!

成果が出ないユーザーインタビューは何がダメだったのか? ~「誰に聞くか」の探り方 ~丨SESSION 講演内容丨プロダクトマネージャーカンファレンス 2023 speakerdeck.com www.youtube.com

誰に聞くかという見過ごされがちな問い

みなさん、ユーザーインタビューをする際、「誰に聞くか」 ってどのように決めていますか?

過去の自分を振り返ってみると、知っていることやデスクリサーチした情報をベースに、具体の課題仮説を立て、その課題を持っていそうな人の条件を仮説で仮置きし、その条件に当てはまる人々に話を聞きにいくという流れで対象者選定を行ってリサーチを進めていました。

初期に課題仮説でおいた対象者群でインタビューを進めると、課題感がイマイチ弱かったり、課題は存在してもその解決が必ずしもプロダクトの成果に繋がらなかったりという状況によく陥っていました。

リリースした施策について、効果が出たもの、出ていなかったものを追って振り返りをしてみると、成果に繋がらなかった施策は、課題を定義した対象者群が結果的に非常に狭いパイであったり、そもそもズレた対象者にしか話を聞けていなかったことに気づきます。

リサーチを進行している最中では、初期仮説の検証に固執し、聞くべき人を外していたことに気づけていなかったのです。

聞くべき人を外しているリスク

プロダクトづくりをする上で、真に解くべきユーザー・顧客の課題を特定するためにリサーチをする、声を聞くというのはとても基本的な作業であり、この「誰の課題を解くか」はプロダクトの成果が大きく左右される重要なプロセスにも関わらず、あらためて世の中の PM 系・リサーチ系の本や記事を読み漁ってみても、「誰に聞くか」について深く掘り下げて詳細に語られているものは少ないことに気がつきました。

であれば自分なりに思索を深めてみよう!

ということで、過去の経験やこの1年間の試行錯誤し考えた内容をまとめてみたというのが今回のお話です。

プロダクトの成果と対象者選定

まず初めに、そもそもなぜプロダクト開発においてユーザーインタビューを行うのか?という根本から考え直してみます。

プロダクトは、ある課題解決を提供し、価値交換がなされる仕組みだと考えています。したがってプロダクトの成果とは、より多くの人々があるシーンにおける課題解決や欲求を満たす手段として、他でもなくそのプロダクトが使われ、対価を受け取り、世の中が良くなっている状態を作ることだと言えます。

このように考えると、より多くの人々にそのプロダクトを使ってもらうためには、

  • その人 × その状況にとっての課題解決ができる価値をプロダクトが提供している
  • その価値がうまく認知実感され、相対的に最もコストパフォーマンスを踏まえ使い勝手が良く愛すべきものに仕上がっている

の2点を満たす必要性があります。

したがって、プロダクト開発においてユーザーインタビューが担う役割は、下記の2つに集約できそうです。

  • 現プロダクトを構造的に使う理由がないような現ターゲット外の人々の解くべき課題を発見・特定すること(≒ SAMを広げる・ポテンシャルユーザーを広げる
  • 現ターゲットユーザーにおいて現プロダクトを使ってもらうために、利用前中後の体験上で生じている課題を発見・特定すること(≒ SOMを広げる・アクティブユーザーを増やす

プロダクトの成果を目的として行われるユーザーインタビューは、これらの役割を果たせていない場合うまく行っていないと言えるでしょう。

成果につながらないユーザーインタビューとは?

まずはこの観点に照らし、どんな目的でどのような対象者群(現ターゲット内?ターゲット外?)に対して話を聞きにいくべきか?がきちんとリサーチ関係者の間で認識共有できている状態を作るところが、成果につながるユーザーインタビューのスタートラインになります。

その上で、大目的を明確化して話を聞きに行っていたとしても、ユーザーインタビューがうまく役割を果たせない場合があります。それが冒頭でも出ていた、成果につながる課題定義をする上で、聞くべき人にそもそも当たれていない というケースです。

ユーザーインタビューにおける当初の対象者条件は、把握できているファクトが不足していることから、ざっくりせざるを得ないことが多く、それでインタビューができた人たちの意見・ファクトだけをベースに論を組み立てると、それが再現性があるものなのか?他にもっと優先すべき対象者や課題はないのか?という点については自信が持てないまま進んでしまいます。

聞くべき人に当たれていないケース

では、そのようなリスクをどのように減らし、聞くべき人に話を聞くにはどうしたら良いのでしょうか?

ゲームのはじめ、未知の世界でどう動きますか?

突然ですが、皆さんオープンワールドのゲームをプレイしたことはありますか?

(最近流行った作品で言えば『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のような作品で、ゲーム内の世界を自由に探索でき、ストーリーの攻略順序がユーザーに完全に委ねられているようなゲームのことです)

あなたが主人公としてオープンワールドの世界に最初に降り立った際、あなたはどのようにゲームをプレイしますか?

まずゲームを始めた初期段階では、 そこにどんな世界が広がっているのか、どんな方向に進むのが良いのか、どんな順序で攻略するのが良いのか全くわからない状態からゲームがスタートします。

多くの皆さんは、まずは周りを探索したり、近くにいる人に話を聞きながら、その世界についての理解を深め、どのような世界が広がっており、まずはどこを目指すべきなのか、どのような順序で攻略を進めるのが筋が良さそうか、情報を集めながらゲームを進めるのでないでしょうか?

課題定義のユーザーインタビューにおける対象者選定もこの状況と非常に似ています。まずはプロダクトが課題解決しようとしているテーマにおいて、顧客市場の構造を探索して理解を深め、どんな方々を深掘りして課題解決を試みるべきなのかのあたりをつけるというのが序盤戦のキモです。

ゲーム開始時のようにまずは探索をする

この作業がないと、闇雲にユーザーインタビューを重ねても同じような人の同じような課題しか聞けておらず、狭い情報で誤った意思決定をしてしまったり、現段階では攻略難易度が高く分が悪い課題にアタックして攻略失敗してしまうリスクが上がってしまいます。

ではこの探索活動は具体的にどのように行っていくと良さそうでしょうか?

パターンを探り、当たりをつける

まずは顧客市場について、そもそもどんな行動パターンの方々がいるのか、どこに課題を深掘りすべき筋の良い方々がいらっしゃるのか全くわからない状態から探索がスタートします。

この状態では、初期ターゲット・課題仮説は持ちつつも、とりあえず何人かにインタビューを進めてみるところから始めるしかありません。

大事なのは、初期に話を聞けた方々の話から行動パターンを整理し、

  • そのテーマにおいてどんな行動パターンの方々が存在するのか?
  • 初期に話を聞けていない行動パターンの方々がどんな人か?

を探ること、そしてそれを見越して数サイクルを回す前提でのリサーチ進行プロセスやスケジュールを組んでおくことです。

B/43ペアカードの具体例で考えてみます。

ペアカードはコアターゲットユーザーとして特に同棲カップルにご愛用いただいています。そこからもっとターゲットを広げ新婚夫婦に使ってもらえる余地がないだろうか?という目的でのリサーチを行うとしましょう。

この場合、まずは何人かに話を聞き、新婚夫婦の家計管理の行動パターンとしてどのような方々がいそうかを探ってみます。

すると、新婚夫婦にはおよそ3つほどの行動パターンの方々がいそうだということがわかってきます。

  • 共有口座を利用し、支出管理は特にしていない新婚夫婦
  • 個別口座を利用して月末に精算をし、支出管理をしている新婚夫婦
  • 個別口座を利用し互いに支払い負担を適当に相殺し、支出管理をしていない新婚夫婦

行動パターンで分類

このような行動パターンで新婚夫婦が分類できると、逆に話を聞けていない新婚夫婦の像や条件が浮かび上がってきます。こういった方々についても探索的にインタビューをしてみましょう。

聞けていないパターンの人達にも話を聞きに行く

このように、序盤に行動パターンに関する情報を得て整理することで、そもそも自身達が情報を得られていないタイプの人々について自覚的になることができたり、その行動パターンをするのであればきっと今はこんな課題感が生じているのではないか?こんなことが気になったりしないのか?と、より詳細な点に疑問が持てるようになっていきます。

行動パターンにより顧客市場の構造が整理できてきたら、各行動パターンを分岐させるような前提条件について考察を深めていきます。

具体的には、序盤の行動パターンを整理するための探索的なインタビューを進める中で並行して、 いつ頃からどのようなきっかけでその行動をするようになったか?の起源を探る質問や、他の手段ではなくその手段を選ぶように至った思考の流れ などを尋ねることで、その行動の前提となるその人が置かれている状況やバックグラウンド、性格や価値観など、その行動が必然的に現れるような前提条件を整理していきます。

例えば、B/43ペアカードの新婚夫婦リサーチの例で言えば、共有口座を開設しているかどうかや、支出管理をしているかどうかといった行動パターンの違いについて、その行動の起源・きっかけを探っていくと、下記のような前提条件が行動の違いを生み出していることが見えてきました。

  • 前提条件1:家計管理や金銭負担の見える化にモチベがあり双方が協力的な価値観であるか?
    • Yes → 片方しか状況が見えないのは嫌なので共有口座を開設してお互いのお金を見えるようにしたいねとなる
    • No → 逆に二人のうちどちらか一方でも相手に見せたくない意志があると共有口座は使わない
  • 前提条件2:未来の金銭目標があるか? (結婚式資金、養育費、車や家のローンetc…)
    • Yes → 貯金や負債の返済に備えて使いすぎないように日々の出費をコントロールする必要がある
    • No → 特に支出をしっかり管理する必要がないので好きなようにお金を使う

行動パターンを分岐させる前提条件とは?

このように、行動パターンを分岐させる前提条件について考察することで、その条件に当てはまるユーザーについて追加の深掘りインタビューができるようになったり、ユーザーのボリュームについて推計・調査ができるようになったりします。

ここまで出来たら、課題が深そうな行動パターンの方々について優先度をつけ、課題を深ぼるインタビューを重ねていくと良いでしょう。

ここで優先度をつける際のポイントは、非合理な行動や予想外の行動をしているユーザーに注目することです。

例えば、未来の金銭目標があり、一定額を貯金するために月中しっかりと支出管理をしている新婚夫婦の一部は、各々のクレカでの出費についてスプレッドシートに起票しながら互いの立替精算額を計算していき、月末に計算するという非常に面倒臭い非合理な行動を毎月行っていることに気づきました。このような非合理な行動パターンの人々は、現状で適切な代替手段が存在しておらず、深い課題がある確率が高そうな方々であると言えるでしょう。

深掘りすべき優先度をつける

優先度づけのコツ:非合理・予想外の行動

以上、このように探索・分類・優先度をつける作業をリサーチの序盤戦で行うことで、課題定義で深堀すべき対象者選定を筋よく行える可能性がグッと高まり、成果につながるインサイトが得られる確度が上がるのではないかというのが今回のメインメッセージでした!

(※登壇セッション・スライド資料内では、リサーチの終盤戦として課題定義をした対象者群が結果的に筋がよさそうかについて、戦略観点でダブルチェックするプロセスについても触れていますが、本ブログでは長くなりすぎるため割愛させて頂きます。気になる方は是非冒頭の pmconf2023 登壇動画や資料をご覧ください!)

皆さんとの感想戦

最後に、登壇セッション後に皆さんから幾つか疑問や質問、ご意見をいただいたので、それらに対する自分の考えを述べさせていただければと思います!

Q1. 具体的に探索フェイズにおいてはどれくらいの人数の方に、どのくらいの期間でインタビューを実施すべきか?

こちらはそのテーマについて存在する行動パターンの数によって増減しますが、各行動パターンを見出すのに2,3名ずつがいないとそれがパターンと認識できないので、パターン数 × 2~3名程度が必要になります。例えばパターン数が5つ程度に収束する今回のような場合だと、10 ~ 15名程度が目安になります。

※ Q2 でも後述しますがあまり細かくパターンを分け過ぎると収束しない / リターンが小さいターゲットしか狙えなくなるので、適度な個数に収束するように本質的な前提条件の軸を切るのもコツです

Q2. 行動パターンを分ける前提条件の軸を見つけ出す、絞り込むのが難しいと思うがどのようにやっているのか?

① 前提条件を見つける話と、②前提条件軸を絞り込む話とに分けて考えを書きます。

① 行動パターンを分岐させる前提条件を探る方法については、発表やスライド内にはあまり言及がなかったのですが、「その行動をいつ頃からどんなきっかけでするように至ったのかの起源」や、「その行動を選ぶ際の判断基準や価値観」について深堀り質問をし、複数人に共通する要素を探すことで見つけることができると感じています。

例えば共有口座を利用している新婚夫婦の例で言えば、「いつ頃から共有口座を使っているのか?」「当時どんなきっかけがあって共有口座を検討し始めたのか?」「その前はどうしていたのか?」「その検討の前後で何か状況が変わったのか?」「もしそれがないとどのように困るのか?」などを尋ねることで、共有口座を使う選択をする人としない人とを分けるような前提条件を探っていきました。

② 前提条件軸を絞り込む話については、行動パターンは細かく分けようと思ったら幾らでもパターンを分岐させられてしまうので、課題優先度の当たりをつける上で最も本質的と思われる = 課題が深そうな行動パターンを炙り出し分岐させる厳選された数個の軸になるように意志を持って絞ります。この際のコツは非合理・予想外な行動をしている行動パターンの人々を綺麗にあぶり出し、行動パターンを MECE に分類できる軸を数個に絞ってしまうとまとめやすいです。

注意事項として、ここは自身の都合が良いように解釈し軸選定するバイアスがかかりやすいステップなので、あくまで前提条件軸の候補は、ユーザーインタビューの発言やファクトからの妥当な解釈をベースに考えること、また設定した前提条件軸に当てはまるユーザーボリュームの推計や調査を追って組み合わせて行うことが大事でしょう。

Q3. ユーザーインタビューだけで調査を完結させてしまって良いのか?

結論、良い場合もあるしダメな場合もあり、リサーチを実施するに至った元の目的や置かれた状況によるというのが解答になります。

意思決定の精度を高めたい、あるいは求められるリサーチ結果の客観性を高める必要がある(意思決定に際して複数のステークホルダーを巻き込んで合意を取りたい / 学術的な研究や調査レポートとしての示唆を出したい etc…)などの要求に応じて、リサーチの後半で定量的なリサーチを組み合わせることも視野に入れると良いでしょう。

他方で新規性が高いプロダクトや機能開発におけるリサーチにおいては、そもそも定量リサーチで調査すべきデータの集計軸そのものが何かから見出す必要性がある場合が多く、初期段階では定性的なインタビューから始める必要性があると考えています。(逆に既存事業のグロースなどですでに行動パターン整理や課題のあたりがついている状態であれば定量リサーチから始めるのもありだと思います)

また下記のような場合は定量的なリサーチを組み合わせない方がトータルのプロダクト・事業推進の進行上望ましい可能性もある為、ケースバイケースで定量調査の要否は判断いただけると良いかと思います!

  • プロダクト開発を進める上で定量的な調査をしたとしても意思決定をする上で不確実性がそれほど変わらない場合(新規性が高い課題解決をしており定量調査をしても正確な回答が得られる可能性が低い)
  • 調査を重ねて意思決定の質を高めるよりも実行し結果から検証する方が早い場合(小さく効果検証が可能な施策検討である)
  • 正確な調査にかかるコストが甚大で実行不可能な場合(toBの事業でリサーチパネルが十分に存在しないドメインであるなど)

おわりに

いかがでしたでしょうか?

私自身、過去なんとなく出来たつもりになっていたけど実は解像度が低かったユーザーリサーチの対象者選定プロセスについて、少しでも考えを深める手がかりとなれば幸いです。

本ブログの姉妹編として、「誰に聞くか」と並行しながら、課題定義をどのように行うと良いか?についてまとめたブログ『ユーザーリサーチの勘所: 行動パターンを見つけてユーザーの課題に共感しよう』も併せてお読み頂けると課題定義のリサーチプロセスの解像度が高まるかと思いますので是非こちらもご覧ください!

また本ブログを含めた弊社のプロダクトマネジメント組織の日々のナレッジや、プロダクト・組織のポテンシャルなどについて、『プロダクトマネージャーに興味がある方へ』ページにまとめ公開していますので是非そちらも覗いてみてください!

そして最後に、スマートバンクではプロダクトマネージャーをはじめとし、さまざまな職種でユーザーについて考えるのが大好きな方々を大募集しています!

募集要項:プロダクトマネージャー

少しでも弊社に興味を持った方は、ぜひお気軽に自分や気になる社員へカジュアル面談申込頂いたり、DM(X: @jouykw)いただければ〜!!

それではまた!

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