こんにちは。スマートバンクでプロダクトマネージャーをやっているinagakiです。
スマートバンクでは「Think N1」というカルチャーのもと、ユーザーが本当に欲しいものを作るために、インタビューなどを通じてじっくりユーザーと向き合うことを大切にしています。
私自身もキャリア的にtoCプロダクトに携わることが長く、インタビューを通じてお話を伺う機会が多かったのですが、ともすると誤った意思決定に導きうる危険性もはらんでいます。
あるあるなのが「インタビューでは良いと言ってくれたのに、実際は使ってくれない」という話です。
必ずしもユーザーが論理的・合理的に利用するわけではないtoCプロダクトづくりにおいては、いかにユーザーの「本当の心理」を掴むことができるかが重要になります。
そういった意味で、インタビューを「話を聞く場」ではなく、ユーザーを理解するために「観察する場」として活用できるかが重要なのではないかと考えています。
今回は、「観察する場」として最大限活用するために、どうすると良いか考えてみます。
インタビューでユーザーの”本音”を掴むのは難しい
プロダクト開発において、インタビューを活用するケースは大きく以下に分けられると思います。
- 課題仮説抽出・検討フェーズ
- 課題仮説検証フェーズ
- ソリューション検証フェーズ
この中で、特に課題仮説抽出・検討フェーズにおいては、ユーザーの実態をより正確に捉えることが筋の良い仮説を見つけることに繋がります。
本ブログでは主にこの課題仮説抽出・検討フェーズでのインタビューを想定して考えてみようと思います。
実態を捉えるために、理想的には普段の生活や不便に感じていることをやっている様子を実際に観察するのが良いでしょう。しかし、現実的にはそういった機会を設けることが難しいケースの方が多いのではないでしょうか。
そのため、インタビューを通じてユーザーの実態を掴むことが重要になってきます。しかし、機会は作りやすいものの、対人コミュニケーションの特性上、「本当のこと」を言いづらくなってしまう構造的な障壁が存在し、実態を掴みづらいという難点があります。
相手への遠慮や忖度、初めての人に対する話しづらさや面倒だから適当に答えてしまう…など、意図せず「本当のこと」を覆い隠してしまうノイズが発生してしまうのです。
そのため、「ユーザーの発話そのもの」だけではなく、発話の背景にある「心理」と「背景情報」を掴めるインタビューをすることが重要になります。
「発話」と「その背景となる心理」を掛け合わせて解釈することで、より真相に迫れるようになり、より正しい意思決定に繋がる示唆を得られるのではないかと思います。
心理を把握するための”擬似観察”のすすめ
だからと言って、この背景心理を「どんな心理ですか?」と聞くのは悪手でしょう。先ほど述べたノイズに覆い隠された発話になってしまうだけでなく、ユーザー自身も言語化できていないことも多く、得られたい結果は得られないでしょう。
代わりに、インタビューを通じて背景情報を引き出し、ユーザーを”擬似観察”するなかで、心理を紐解いていくのがおすすめです。
「擬似観察」とは、質問を通じてユーザーの日常生活をあぶり出し、想像上でその方の普段を観察するというものです。
もちろん想像の上ではありますが、できる限り実態に近いユーザーの普段の様子を踏まえて、心理を理解したり、発話を解釈することで、より「本当のこと」に近づけるようになります。
擬似観察をするためには、対人コミュニケーション上のノイズを回避しながら、いかに多くの背景情報を引き出せるかが重要になってきます。
解像度高く、ユーザーの実態を想像しながら、ユーザーの心理を理解できるようにするための、重要なポイントについて紹介します。
擬似観察のための5つのポイント
📝本音を言ってもらうには最初の5分が勝負
インタビューはおおよそ60分程度、長くて90分で実施することが多いと思います。
この限られた時間でできる限り多くのことを引き出せるかが重要になってきますが、一方で、初対面の相手に対してどこまで正確に自分の普段のことを話せるのでしょうか?
自分ごとに置き換えてみると想像しやすいですが、初対面の相手に対しては少しぼやかして話したり、言葉少なめになったり、どうしても具体性が落ちた話をしてしまう傾向があります。
こうした前提の中で、いかに早く「本音がこぼれる関係」になれるかが重要になってきます。
ラポール形成などのテクニカルなコミュニケーション上の工夫は当然として、「この人には話してもよさそう」という関係値を築くために、いかに早い段階からオープンに話していただくための工夫をするかが重要になります。
最初の5分で完全に打ち解けることは難しいですが、最初の5分の”打ち出し角度”で「本音がこぼれる関係」に到達する時間が早まるという感覚があります。
ポイントとしては、相手にオープンになっていただくために、まずこちらがオープンな姿勢であること、そして相手に対してオープンになってほしいと明確に伝えることがあります。
具体的なアクションとしては…
💡最初に「とにかく具体的に教えてほしい&言いたくないことは言わなくても大丈夫」と宣言する
💡こちらのオープンさを伝えるために、笑顔や相槌、声のトーンなどインタビューUIをこだわる
💡自分のことも小出しにネタを出し(「実は自分もXX好きなんです!」「XX気になってたんですよ!どうでした?」等)、共通点を見つける
といったものがあります。
限られたインタビュー時間の中で最大量の情報を引き出すためには、最初の5分からしっかり本音で話していただけるようにする工夫が重要になってきます。
📝背景情報は幅広く聞く
”擬似観察”をするためには、背景情報をできるだけ多く引き出すことが肝になります。
背景情報とは、その方の属性情報に始まり、どのようなライフスタイルなのかを知るための情報のことです。
例えば…
- 家族構成とそれぞれの方のご年齢を教えてください。
- 平日はどのような過ごし方をしていますか?平均的な1日の流れを教えてください。
- 普段食料品を買うのはどんなところですか?よく行くお店も具体的に教えてください。
- スマホで利用するアプリのトップ3はなんですか?
といった質問をします。
こうした背景情報は、その方の人物像を把握するための情報であるため、インタビューの趣旨に限定されず幅広く聞くと良いでしょう。
例えば、健康管理に関するユーザーの課題仮説を見つける目的のインタビューだとしても、過去の職歴やお子さんの習い事、好きな雑誌、最近行った旅行先など、健康のことに限らず幅広く背景情報を集めます。
その方の生活水準や嗜好性、価値観などを理解するヒントが得られ、発話の背景に潜む心理を知ることに繋がります。
ただし、詳細に聞くこともセットで考えると、質問量が膨大になり、背景情報を聞くだけであっという間に時間が過ぎてしまいます。
そのため、事前のインタビュー設計の段階で、最小限聞いておきたいことをリストアップする工程が重要になってきます。
どう設計すると良いかは、対象となるユーザー層の属性的なバラツキやユーザーに対する現状の解像度の高さによって異なるため、詳細は割愛します。事前に準備することで意図せず時間が過ぎてしまったというケースを防ぐのが良いでしょう。
📝追加質問で推測を減らす
背景情報を集める過程では、その具体性が極めて重要になります。
どこまで具体的に背景情報を聞くべきか、という話ですが、個人的には「脳内で映像として再生できるレベルでイメージできるか」を基準としています。
例えば、「普段どんなところで買い物をすることが多いですか?」の質問に対して、「近所のスーパーです」という回答では、その方の日常生活を想像するには情報が足りません。したとしても、人によって解釈が異なるため、あまり意味をなしません。
付け加える形で「よく利用するスーパーを具体的に教えていただけますか?」という質問をすれば、「一番近いスーパーはピーコックですが、高いので反対側にあるライフに行っています」というような、生活を想像しやすい情報を得られることができます。
「スーパーに行く頻度はどのくらいですか?」の回答が「月に1回です」だったとしても、平日の会社帰りに利用する月に1回なのか、毎月月初の週末に1ヶ月分をまとめて買うための月に1回なのかによっても、その行為の位置付けは大きく変わります。
映像としてイメージできるレベルで具体に聞けている状態とは、すなわち、より実態に近い背景情報を聞けていることになります。
最初から細かく質問設計をすることは難しいので、お話を聞きながら、曖昧な部分を埋めるために質問を重ねていくという聞き方が良いでしょう。
そのためには、脳内で映像として想像しながら質問し、イメージにモヤがかかる部分を追加質問するという発想でインタビューを進めると良いでしょう。
📝潜在的な共通点を探す
インタビューで背景情報を引き出した後は、背景心理を言語化していくステップになります。
N1インタビューで深く対象者の背景情報や背景心理を把握したとしても、扱い方を誤ると”たかがN1の声”となってしまいます。
ユーザー像に対する理解を深められるようにするためには、複数人の話を聞いた上で、潜在的な背景心理の共通点を見つけだし、パターン化するステップが必要となります。
ここでのポイントは、まずは背景心理でパターン化するという点です。
例えば、
- 2人の子供を育てる30代後半女性のAさん
- 移住を目標とする既婚・40代前半男性のBさん
- 結婚を考え始めている5年来の彼氏と同棲している20代後半女性のCさん
の3名の方のお話を伺った場合、背景情報をベースにパターン化しようとすると、属性があまりにも違い過ぎて意味のある分類ができません。
一方で、例えば、お金に関する背景情報を聞き出す中で、
- Aさん:「夫が何にいくら使ってるかわからないんですよね…」「貯金は二人のことなのに…」
- Bさん:「自分は将来に向けた資産シミュレーションをしているんだけど、パートナーは興味ないみたいで…」「それでいいのかな…」
- Cさん:「結婚も考えるとふたりのお金になるから無駄遣いを減らしていきたいんだけど…」
といった発話から、「パートナーとお金について話したいのに話せていない」という心理仮説を持ってみると、共通点として浮き上がってきます。
ここから背景情報をもとに深掘りをしていくと、今度は背景情報ベースでの共通点が見つかっていき、背景心理の解像度も上がっていきます。
例えば、家計に関する意思決定はいずれもご本人が主体的に行なっている、パートナーにアクションを依頼して嫌な顔をされるという経験がいずれもある、等。
背景情報を具体で聞くと、最初から属性情報ベースや似ている行動ベースでパターン化しがちですが、推察される背景心理でパターン化した上で、背景情報の共通点を見つけるという順番が重要になります。
📝総論と各論の行き来で磨き込む
パターン化をするプロセスでは、帰納法的な思考をしつつも、パターンに収まらない小さな”違和感”を拾うという行き来を繰り返すことで、仮説を磨いていくことが重要になります。
「AさんBさんCさんにはこんな心理がありそう」と帰納法的に考える中で、ともすると片鱗が見えてきた共通パターンに引っ張られていきそうですが、(出てくるのであれば)「でも、DさんはXXの部分がちょっと違うのでは?」といった小さな”違和感”を拾って言語化することが、最終的により筋の良い仮説を持つためには重要になります。
スマートバンクでは、各インタビュー実施直後に関係者でラップアップ会を実施するのですが、それまでのインタビューを踏まえた共通する背景心理仮説についてディスカッションをします。
その際、俯瞰して見えてくる共通点と、細かく見たときの違い/共通点についてディカッションすることで、仮説の強度を上げています。
また、このディスカッションを経て、次のインタビューをその仮説検証の場として活用するサイクルを回すことで、インタビューを繰り返すたびにユーザー心理の解像度を上げられるようにしています。
この議論の過程で、図式で背景心理を構造的に整理することも重要です。図式化したものを見ながら、対象者をマッピングして議論をすると、より総論としての傾向と各論的な差分を言語化しやすくなります。
さいごに
ここまでインタビューを通じてユーザーの実態を理解するための”擬似観察”のコツを紹介してきましたが、やはり100%ユーザーの実態を把握することは現実的ではないと思います。
重要なのは、自分自身の主観や推測が入っているという前提のもとで、謙虚にユーザーを捉えることです。ただ、その前提の上で、少しでもユーザーの実態を理解するための工夫として参考になれば幸いです。
スマートバンクではこうしたN1インタビューを中心としたリサーチを活用して、ユーザーと向き合いながらプロダクトづくりをしています。
ご興味あるプロダクトマネージャーの方は気軽にお声掛けください!