こんにちは、プロダクトマネージャーのmoretです。
この記事は スマートバンク Advent Calendar 2024 の3日目です。昨日はsugaの「Slackワークフローを使った社内業務連携と可視化」という記事でした。
今日の記事ではスマートバンクが公式HPでもトップに掲げるメッセージである「人々が本当に欲しかったものをつくる。」に関連して、ユーザーインサイトについてとスマートバンクがこのためにやっていることを書いてみました。
インサイトってなに?
プロダクト開発の現場において「人は自分が欲しいものを知らない」「ユーザーの意見を聞くな」などの格言は広く理解されるようになってきました。もし世の中がこのように進化してきていたら、いまごろ人々は通勤通学で駿馬にまたがっており、ドラッグストアでは馬の世話グッズが飛ぶように売れていたことでしょう。Umer Eatsのような馬がご飯を運んでくるサービスも存在していたかもしれません。
これは「人々がいま欲しいと思っているもの」が本来求めるものを全体とした氷山の一角にすぎず「人々が本当に欲しかったもの」に自分では気づけていないことの裏返しでもあります。今日の通勤通学を支える車輪やモーターや舗装路などの発明は人々の移動にとってのイノベーションでしたが、こうした技術の転用を見つけるためには人々が移動に求める潜在的な需要を発見する必要がありました。
さて、見出しでも投げかけたインサイトとは?という問いについて、ユーザーインサイトという単語をググっても同様の記載を多く見つけられますし、インサイトとはまさに前述の「潜在的な需要に気づくこと」に他なりません。一般的に説明されるユーザーインサイトの説明として便宜上このように定義しておきます。
ユーザーインサイト = 顧客が気づいていない意識や購買動機を見抜くこと
「人々が本当に欲しかったもの」を作るためにはユーザーインサイトが重要ということは直感的に理解できます。しかしながらこのような定義を踏まえた上でなお、ユーザーインサイトが何なのかかいまいちピンと来ないという方も多いのではと思います。そこで今回は実際にユーザーインサイトを掴んでしっくり理解するためにはどうすればよいか、というところに踏み込んでユーザーインサイトを説明しようと思います。
インサイトの図解
「ユーザーの意見」は氷山の一角
まず最初に「人は自分が欲しいものを知らない」「ユーザーの意見を聞くな」といった格言が生まれる背景について触れておきます。いわゆる「ユーザーの意見」は図の中で顕在的な「要求」としてあらわれますが、顕在的な要求に応える製品はすでに世の中にあふれています。そのためユーザーの意見に対応した製品を作るだけでは多くの競争相手に勝つのは難しくなります。ユーザーの意見は要求空間における氷山の一角であり、新しい価値は海下に大きな塊として隠れています。こうした事情もあり、「ユーザーの意見を聞くな」と言われますし、ユーザーが自分で気づいていない需要を発見するためにも図の左側に配置したユーザーの「状況」や「課題」に注目する必要があります。
状況を理解し、課題に共感する
ユーザーの課題をクリアにし、インサイトを掴むためにはその課題が発生する状況を背景と動機の2つの要素に大きく分けて理解することが重要です。この「背景」と「動機」は大まかに下記のような内容を指しています。
背景: ユーザーの家庭環境、経済状況といった生活に関わる背景と課題が発生する瞬間的な状況を含めた背景
動機: 課題が発生している状況で、そもそもユーザーがどういう事を達成したいと思っているかというモチベーション
背景や動機についてイメージしてもらうため、具体例をプロットしてみました。ジョブ理論に描かれるミルクシェイクの逸話をもとに記載してみたので、聞いたことあるエピソードだという方もいらっしゃると思います。(※本項ではジョブ理論について言及するつもりはありません)
ファストフード店がミルクシェイクの売上を増やすために行ったリサーチで顕在的な「要求」としてミルクシェイクの値段を安くすることや、味を濃くするなどのフィードバックを得て変更したものの、売上への変化はなかったというところからこのエピソードは始まります。ユーザーの意見をそのまま真に受けてしまうことでは成果が出なかったという典型的なアンチパターンと言えるでしょう。実際は午前中にひとりで来店する客にミルクシェイクが売れている状況だったため、図にはこの状況にしてプロットしています。それぞれこうした状況です。
背景
- 幸せな家庭のパパが毎日の通勤をマイカーで行っている
- [生活背景] 幸せな家庭のパパが
- [生活背景 / 瞬間] 毎日の通勤をマイカーで行っている
- 職場までは30分以上運転する必要がある
- [嗜好性]典型的な甘いもの好きなタイプ(もしかするとぽっちゃり体型かもしれない)
- [瞬間的状況]少し早起きしたので十分に眠れなかった
動機
- [大目的]会社へ出社する
- 状況から安全、快適、清潔といったごく当たり前の動機も暗黙的に存在する
- 運転中なので、手を防いではいけない このように「状況」を整理してみると、「朝の通勤で長時間運転する時間が退屈」であることがユーザーの課題としてはっきりと理解できます。日によっては朝ご飯を十分に食べられなかったり、疲れていて眠い日もあるはずです。そうした瞬間にファストフード店の看板が目に入ると「今日くらいはミルクシェイクでも買っちゃうか」となることが簡単に想像できます。
われわれのような開発者がもし電車通勤であっても、甘いもの好きじゃなかったとしても、ユーザーの状況を背景や動機に整理して理解すると、ユーザーが抱えている課題に「共感」できるようになります。
広がる要求空間を発見する
ユーザーの状況や課題に対してひとたび共感できれば「ユーザーの意見」が氷山の一角であったことにも気づけるようになります。上で挙げたようなユーザーの状況に対して、例えば通りのドライブスルー付きのコーヒーショップでテイクアウトするようなシーンも目に浮かびますし、また退屈しのぎにSpotifyでお気に入りのプレイリストを爆音で流すみたいなシナリオも共感できると思います。 ここで言うコーヒーやプレイリストが潜在的なビジネス機会となります。長時間の退屈な運転に対して「目覚ましコーヒーを片手に運転したい」や「元気づけの車内カラオケ」のような要求が存在するわけです。このような要求の例はほんの一例にすぎず、同僚と2,3人でブレストするだけで沢山のパターンを出すことができるはずです。というのも潜在的な要求はとても広い空間に無数に存在しているためです。また要求それぞれに対して提供できる価値が1対nの関係性で存在し、製品を作り出すことで課題を解決する解決空間はもっと広いことも分かると思います。
ユーザーの状況に共感することは顕在的な氷山の一角(ユーザーの意見)を見ることではなく、海中の氷塊(=要求空間)に気づくことでもありますまさに共感すること自体がユーザーインサイトを得るということです。
誰が使うねん?
アドベントカレンダーの初日、代表のshotaの記事にこのような一節がありました。
「お前にだけ、俺が最初に起業した時に何から始めたか教えたるわ。最初な、パチスロ台売っててん。近所の潰れたパチンコ屋からな、型が古くなったパチスロ台を安く買ってくんねん。」
「パチスロ台なんか誰が買うねんって思うやろ、おんねん買うやつ。ヤンキーの彼女が彼氏の誕生日にパチスロ台プレゼントすんねん。
で、いつも説明するお前の新規事業って誰が使うねん?そいつ、いますぐ連れて来れるけ?」
その時、ハンマーに打たれたような衝撃と共に、
事業というのはどこか「トレンドに張って一発当てるもの」という認識から、もっとずっと地に足ついたものなんだ
と思うようになりました。
人が「欲しい」と思えるような製品をもとに事業をつくるために「トレンドに張って一発当てる」ような尖ったことは必ずしも重要ではなく、前章で挙げたように特定の状況において起こる課題に対して素直に欲しいと思える製品を提供することが重要ということです。shotaが言う「地に足がついたもの」もまさにこういうことだと思います。
以前にブログでも紹介した通り、スマートバンクではこのような仮説シート(Think N1 シート)を書いて製品開発をスタートしています。これは「状況」「動機」「課題」について考えるきっかけのシートでもあり、また「開発者である我々がよく分かっていないこと」に気づくためのシートでもあります。シートに「課題仮説」とあるように、最初に埋める内容はあくまでも仮説であり、UXリサーチなどいくつかの調査を経て仮説の精度をあげることでシートを完成させています。
人々が本当に欲しかったものをつくる
今日のシリーズB資金調達発表に合わせて、記者さま向けに事業戦略発表会を行いました。その中で生成AIを活用し、個人に合わせた助言と実行のサポートを提供する「家計管理アシスタント」という新しいプロダクトの構想を発表させていただきましたので、スレッドで詳しく紹介させてください。 pic.twitter.com/72tMQ10wx0
— takejune (@takejune) 2024年11月12日
takejuneの一連の投稿でも描かれるように、スマートバンクでは「家計管理アシスタント」を構想し、開発を進めています。 新しいプロダクトを実現していくことで、これまでは「記録」することであった家計管理を「行動変容」を起こして家計を改善するアシスタントとして新しく作り変えようとしています。とても多くの仮説を含む構想のため、実現させていくためにはThink N1シートをはじめとして、ユーザーインサイトを理解するために多くの調査や実験を重ねていくことになると思います。
ユーザーが「このサービスを使う前は、一体、どうやって問題解決してたんだろう」そんな過去の手段を思い出せないぐらい、生活を根本から変えるような非連続なプロダクトを生み出す。
先ほどのshotaのブログの締めくくりとなる一節です。
「本当に欲しかったもの」は目の前に差し出されはじめて「本当に欲しかった」と感じるものだと思います。そして一度それを知ってしまうと以前のやり方には戻れないものでもあると思います。 スマートバンクでは「人々が本当に欲しかったものをつくる」ことで人類にとって不可逆な体験創出を進めたいと思っています。
「本当に欲しかったもの」を一緒につくっていきませんか
さて、最後にお約束。
この度シリーズBの資金調達を実施し、スマートバンクでは家計管理アシスタントを一緒につくってくれるメンバーを募集しています。 このサイトに今後のB/43のこと、スマートバンクの会社のことをぎゅっと詰め込みました。興味を持ってもらえる内容があれば、いちどお話ししてみませんか?カジュアル面談で私moretを指名いただければ、ぜひこの記事のこともお話させてください!
プロダクトマネージャー向けのイベントもやるよ!
2024年11月27日(水)にプロダクトディスカバリーの裏話のパネルディスカッションを実施します。IVRyとLayerXのプロダクトマネージャーに来ていただきスマートバンクの稲垣がプロダクトディスカバリーについてお話しさせてもらいます。 本記事を書いたmoretもモデレーターを担当しますのでぜひ参加してみてください。
スマートバンクのアドベントカレンダー、まだまだこれからです!
明日のアドベントカレンダーはエンジニアのtmnbさんです。お楽しみに!